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『わが祖国チェコの大地よ ドヴォルジャーク物語』黒沼ユリ子(著) 読みました

 

わが祖国チェコの大地よ―ドヴォルジャーク物語

わが祖国チェコの大地よ―ドヴォルジャーク物語

 

 今回は『わが祖国チェコの大地よ ドヴォルジャーク物語』を紹介します。ひのまどかさんによる音楽家の伝記シリーズにおいて、こちらのみ著者は黒沼ユリ子さん。図書館でブラームスの本と同時に借りて読みました。ドヴォルジャークブラームスと関係が深い人なので、読むなら二冊とも読むのがおすすめです。『人はみな草のごとく ブラームス物語』の紹介記事のリンクを貼っておきますね。

 

nyaon-c.hatenablog.com

 

クラシカロイド』2期追加キャラの一人(一頭?)で、早速「カバルザーク」とか呼ばれていますね。どんな扱いになるかはまったく予想できないですが、ドヴォルジャークの人生について知っておいても損は無いかなと思います。しかし、チェコ語のムジーク口上を期待したいのに、果たしてコビトカバが人間の言葉を話すの?一体どうなるんだろう…?

伝記ですのでネタバレは気にならないレベルかと思われます。しかし内容に触れる部分は念のため畳みました。続きは「続きを読む」からお進み下さい。

(以下ネタバレあり)

これは気持ちのいい出世物語でした。貧しい肉屋兼旅館経営の家の長男として生まれたドヴォルジャークが、肉屋の修行はしたものの結局都会に出て音楽の道に。貧しい暮らしに耐えていた頃、奨学金への応募で作品がブラームスの目にとまり、それからはとんとん拍子に有名作曲家になります。故郷チェコやドイツ語圏内での評価にとどまらず、遠くイギリス、はてはアメリカ合衆国でも高い評価を受ける。若い頃に授かった最初の3人の子供達を病気や事故で亡くすものの、その後6人の子宝に恵まれ、弟子が娘の一人と結婚して音楽の仕事をサポートしてもらえる幸運も。

もちろんチャンスをものにできたのは、才能だけでなく相当努力してきたからなのですが。言葉の面では、子供の頃から話していたのはチェコ語で、その後ドイツ語、イギリス英語にアメリカ英語も習得しています。作曲においては出版社の「注文通りに」作りつつ、独創性も忘れない。ただ、本書を読む限りでは、ドヴォルジャークは「割とすいすい作曲する人だな」という印象を受けました。何度も推敲を重ねるベートーヴェンブラームスとは異なり、大作を短期間で書き上げてしまうようです(※あくまで個人の感想です)。演奏は地元の先生に教わったものの(それもピアノではなく弦楽器)、作曲は独学なのが驚きです。

個人的には、ブラームスが生涯にわたりドヴォルジャークを支援し、真の友情で結ばれていたことが描かれていて嬉しかったです。この二人はたった8歳差なんですね。ブラームスが出版社にドヴォルジャークの推薦文を書いたことから音楽家人生は軌道に乗り始め、その後も手紙のやりとりやウィーンとプラハのお互いの家を行き来して親交を深めます。ドヴォルジャークがアメリカ滞在中は、彼の作品の出版にともなう「楽譜の校正」を全部ブラームスが引き受けたそうです。ブラームスは既に音楽界の重鎮ですよ!ここには書ききれないほど、それぞれの作品がお互いに影響しあってまた別の作品が生まれた等のエピソードがたくさんありましたので、興味のあるかたはぜひ本書をお読み下さい。

あとがきで著者が「単なる立身出世伝にしたくなかった」と書いてある通り、彼の生きた時代背景とドヴォルジャークの祖国を大切に思う気持ちもしっかり描かれています。チェコ人が「音楽」によって、祖国とアイデンティティを取り戻すお話でもあるわけですね。音楽が盛んなチェコは、スメタナドヴォルジャークヤナーチェクらを輩出しています。スメタナは子供の頃からドイツ語しか話せず、40歳過ぎてようやくチェコ語を習得したらしいです。また、ドヴォルジャークは若きヤナーチェクと交流があったそう。クラシック音楽の大作曲家はドイツ語圏内の人が多い印象ですが、他の文化圏にもいて独自の作品を生み出している事実は忘れちゃいけないなと思いました。ドヴォルジャークは、ノルウェイグリーグ、ロシアのチャイコフスキーとも付き合いがあったのが面白いです。また、アメリカで作曲し初演が大成功をおさめた『新世界より』は、ネイティブアメリカンや黒人の歌を聴いていなければ同じ曲は出来なかった、とドヴォルジャーク自身が語っています。あと、ドヴォルジャークは鉄道マニアであったことと、鳩好きだったエピソードも盛り込まれていました。

こちらの伝記、内容自体は大変興味深く読めたんです。ただ、残念なことに「文章が読みづらい」んですよ。特に話が盛り上がってくると、どこまでも読点でつなげて一文が長い長い。比べては申し訳ないですが、私はひのまどかさんの書き方が好きなのでちょっとつらかったです。もちろん、音楽とチェコ語ができてプラハには何度も「帰る」という著者は、ドヴォルジャークを描くのにふさわしい人選です。彼女にしか書けないエピソードはたくさんあるはず。興味深かったのは、チェコ語でドイツ人は「ニェメッツ」で「ニェミー」(無言)から来ているということ。その昔、8世紀頃スラヴの地に進出してきたゲルマン民族は、チェコ語を理解しようとせず対話もしなかった事実。言語をはじめ文化全般の一方的な押しつけが千年以上も続いてきたという歴史の重み!

ドヴォルジャークの楽曲は、実は私はあまり知りません。代表作『新世界より』は、実家の父がヘビーローテーションしていたレコードの一つなので覚えてしまいましたが、あとは有名な『ユーモレスク』くらいしかピンとこないです。そこで今回、この本の著者が高く評価していた『スラブ舞曲集』を図書館で借りたCDで一通り聴いてみましたよ。ブラームスの『ハンガリー舞曲』はどこか哀しげなのに、ドヴォルジャークの『スラブ舞曲』はなんとなく「楽しい」と感じました。本書より引用「右を向いても左を向いても、ワーグナーブラームスに代表される深刻な音楽が多かった中で、この『スラブ舞曲集』は、また何とユーモアにもあふれていることでしょう」。言い得て妙。でも「深刻」ってそんな(苦笑)。曲によってはそうじゃないのもあると思うんですが…。ここであげたドヴォルジャークの3つの楽曲はいずれも親しみやすいので、他も聴いて「お気に入り」のレパートリーが増やせるといいなと思います。

また長くなりました。最後までおつきあい頂きありがとうございました。