アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ

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「マンガ音楽家ストーリー」(全8巻) ざっくりレビュー

子供達を連れてよく図書館に行く我が家。上の子は伝記マンガを好んで読むのですが、「クラシカロイド」にハマってからというもの、音楽家の伝記を読むことが多くなりました。最近読んだものの中から今回紹介するのは、シリーズ「マンガ音楽家ストーリー」(制作:株式会社ファミリーソフト/出版:ドレミ楽譜出版社)全8巻です。全巻にわたり作曲家の芦塚陽二さんが解説をつけており、作品によっては監修・原作も担当されています。

8って数字、「クラシカロイド」の八音かな?と思ったら、惜しい!男性ロイド5名(バッハ、モーツァルト、ベートーベン、ショパンシューベルト)に加え、あとの3名はシューマンブラームス、バイエルです。後者3名は他社のマンガではまず出会えないので新鮮です。

本当は一冊ずつ詳細なレビューが書きたかったのです。しかし、さすがに量が多くしかも返却期限が迫っていたため(※一度延長しているので次は必ず返却しないといけない)、8冊分それぞれごく簡単な感想文にとどめましたスミマセン!興味を持たれたかたは、ぜひ漫画本の本体の方をお読みください。事情は自治体によって異なるかもしれませんが、図書館の在庫を確認してみるといいかもしれません。私は書棚にない分は予約を入れて借りました。

伝記しかも超ざっくりレビューなのでネタバレは気にならない程度かと思われますが、内容に触れる部分は念のため畳みました。続きは「続きを読む」からお進み下さい。

(以下ネタバレあり)

 ※生没年は諸説ありますが、今回は「マンガ音楽家ストーリー」に掲載されている年を記載しました。
※音楽家の名前の後ろにある()書きは著者名です。

1.バッハ (岸田恋 監修:芦塚陽二)

マンガ音楽家ストーリー(1)バッハ (マンガ音楽家ストーリー (1))

マンガ音楽家ストーリー(1)バッハ (マンガ音楽家ストーリー (1))

 

 ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685年-1750年)。大バッハ、音楽の父とも称される人物ですね。私、バッハに関しては「子だくさんのビッグダディ」という印象しかない(スミマセン)のですが、実際家庭を大事にする勤勉な人だったようです。ただ、若い頃は血気盛んなところがあって抜剣騒ぎを起こしたり、結婚後も雇い主の逆鱗に触れて投獄されたり、といったエピソードもありました。欄外の「バッハこぼれ話」も充実しています。五線譜に書ききれなくなると余白に小さな五線を引いて書いていた話なんて、やはり家族を養っている以上は倹約せざるをえないのかなとしみじみ。彼の死後、次の世代の音楽家に大きな影響を与え、1829年メンデルスゾーン指揮による「マタイ受難曲」の上演により再認識されたことまで描かれています。ベートーベンの「小川(バッハ)ではなく大海(メーア)である」という言葉が引用されていましたが、具体的にどういった点が後生の音楽に影響を与えたのかがイマイチわかりませんでした。もう少し詳しい伝記を読んで補完したいと思います。

2.モーツァルト (岸田恋 解説:芦塚陽二)

 ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト(1756年-1791年)。はじめ神童として有名になった彼ですが、本書では子供時代はごくさらっと済ませてあります。ザルツブルグでの宮仕えの葛藤から単身でウィーンに飛び出す(背中を押したのはミヒャエル・ハイドンで、有名なヨーゼフ・ハイドンの弟)。はじめドイツオペラをかいて成功をおさめるも、だんだんと聴衆にそっぽを向かれるようになり貧しい暮らしのまま生涯を終える。ざっくりまとめるとこのような形です。家族についてはステージパパの父親ががっつり登場しているものの、大好きな母親と姉は出ていません。妻コンスタンツェは特に悪妻ではなくかわいらしい女性として描かれています。ここでもサリエリが悪役ポジションでお気の毒です(※毒殺首謀者にはされていません)。「ドン・ジョバンニ」初演は不評だったようですね。「聴衆はロバの耳」と悪態ついていましたが、台本を書いた作家が「お金を払ってくれるのはそのロバの耳たち」とつぶやいているのが印象的でした。ヨーゼフ・ハイドンモーツァルトを「現存する世界中の音楽家の中でもっともすぐれた音楽家」と評した逸話は書かれています。フリーメイスンについては本文中では触れられず、年譜にさらっとありました。

3.ベートーベン (加藤礼次朗 監修:芦塚陽二)

マンガ音楽家ストーリー(3)ベートーベン (マンガ音楽家ストーリー (3))
 

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年-1827年)。彼はネタの宝庫なので、どの伝記マンガを読んでもエピソードてんこ盛りなんですが、その中でも本書はかなり逸話が多いほうだと思います。その分、展開がやや駆け足かも。主な登場人物だけあげても、ネーフェ先生、ウェーゲラー、ブロイニング家の人々、ワルトシュタイン伯爵、モーツァルトハイドン、リヒノフスキー伯爵、弟子のリース、ナポレオン、二人の弟に甥カール、シューベルト。ただしゲーテは登場しません。恋愛事情に関しては、初恋の人・エレオノーレ、「月光」を捧げたジュリエッタ、そしてテレーゼ・ブルンスヴィック(テレーゼ・マルファッティとは別人ですが、どうもごっちゃにして書かれてあるのが気になります)が登場し、ヨゼフィーネ・ダイム伯爵夫人や「不滅の恋人」に関しては触れられていません。「ハイリゲンシュタットの遺書」を要約文で掲載していますし、ゲリネク神父とのピアノ・バトル(inリヒノフスキー伯爵家)や、リヒノフスキー伯爵とのケンカ別れ(有名な「あなたのような貴族はいくらでもいるが、芸術家ベートーベンは私ただ一人」)まで網羅しているのは驚きです。ただ、シンドラーのポジションにリースがいるのはどうもいただけない(※晩年のベートーベンのそばにリースがいるのはありえないです)。私はベートーベンであればこのレベルでの気付きはあるのですが、他の伝記を読む際にも「どこかに改変があるかもしれない」ことを心の片隅において読みたいと思いました。伝記マンガでは、登場人物をこれ以上増やさない措置として脇役をまとめてしまうやり方は時々見るので、そのあたりは気をつけたいです。

4.ショパン (岸田恋 解説:芦塚陽二)

マンガ音楽家ストーリー(4)ショパン (マンガ音楽家ストーリー (4))

マンガ音楽家ストーリー(4)ショパン (マンガ音楽家ストーリー (4))

 

 フレデリック・フランソワ・ショパン1810年-1849年)。彼の人生で外せないのは、祖国ポーランドが列強諸国の支配下に置かれている歴史的な背景と、生まれながらの身体の弱さです。本書でも、生涯ずっと祖国への特別な思いを抱きつつ病と闘った様子が描かれています。史実かどうかはわかりませんが、祖国を離れて最初に出向いたウィーンでは、猫をいっぱい飼っているツェルニーやベートーベンの主治医(誰?)に会っています。次に移ったパリでは成功し、友人でライバルのリストとの出会い!リストは超二枚目として描かれています。マリアとの恋物語はさらっと終わり。そして初めは嫌っていたジョルジュ・サンドと恋に落ちたとき、1カットのみですが子供向け伝記マンガでベッドシーンが!(Wow!)ジョルジュの子供の話はほとんどなかったものの、二人の間の気持ちのすれ違いや葛藤の描写は秀逸でした。ジョルジュの著書にショパンがモデルと思われる人物が登場するトリビアも。ショパンはジョルジュと別れた後、体調が悪化していきます。死の間際にモーツァルトの音楽を所望し、葬儀ではモーツァルトの「レクイエム」が流された話は有名ですね。葬儀にはリストも参列しています。

5.シューベルト (朝船里樹 解説:芦塚陽二)

マンガ音楽家ストーリー(5)シューベルト (マンガ音楽家ストーリー 5)

マンガ音楽家ストーリー(5)シューベルト (マンガ音楽家ストーリー 5)

 

 フランツ・ペーター・シューベルト(1797年-1828年)。安定した教職を望む父親との確執に、シューベルトを支えたシューベルティアーデの存在。地元のホルツァー先生やコンビクトのサリエリ先生に才能を見いだされた話。名曲「魔王」誕生の逸話など、基本的な部分を網羅してあります。また、恋のお相手については幼なじみのテレーゼの他に、音楽の家庭教師として住み込んだエステルハージ家のカロリーネも。ただ解説にもありましたが、彼の性格から考えて身分違いのカロリーネと恋仲だった話は眉唾物です。そもそもエステルハージ家の下女から性病をもらった説がある以上、ここでは使用人扱いだったと考えるのが自然のような気がします。そしてベートーヴェンを崇拝していたことは、巨匠が亡くなるときまでまったく触れられておらず「いきなり言われてもなあ」という印象でした。尺の配分が何か間違っているような…。なお、持病の梅毒については本文中ではなく解説と年譜に書かれてありました。

6.シューマン (志生野みゆき 監修:芦塚陽二) 

マンガ音楽家ストーリー(6)シューマン (マンガ音楽家ストーリー 6)

マンガ音楽家ストーリー(6)シューマン (マンガ音楽家ストーリー 6)

 

 ローベルト・アレクサンダー・シューマン1810年-1856年)。幼少期は家庭に友人に才能に恵まれ幸せな生活をしていましたが、姉が精神を病んで自殺し父が病で死去してから、彼自身も精神的に不安定になりがちに。母の希望で最初は法律家を目指すものの、音楽への思いは捨てきれずクララの父であるヴィークの門下生となります。少女クララと出会うわけですが、彼女と恋仲になる前にピアノの教え子である男爵家の令嬢エルネスティーネと恋に落ち破局しています。クララとの結婚はヴィークが猛反対(※娘の幸せを思うとわかる気がします)して、裁判沙汰にまで。結婚してからは子宝に恵まれ、作曲と評論活動も軌道に乗って幸せなはずだったのに、精神を病んでしまいます。ライン川に投身自殺を図るも一命を取り留め、その後二年半にわたる入院生活ののちに亡くなるわけですが、この展開があっという間でした。留守を守るクララとブラームスはこの間に大変苦労しているのに…。この伝記のもう一人の主役とも呼べるクララが、本当に芯の強い女性として描かれているのが印象的です。また、ロマン派の他の音楽家との交流はあったはずですが、名前が出たのはメンデルスゾーンショパンだけでした。ちなみに、本シリーズ全編に関わる芦塚陽二さんの解説によると「ローベルトとクララは真実の愛で結ばれている」「クララとブラームスが恋仲だったことはありえない」とのことです。精神分裂症は先天性梅毒によるものだとも書かれていました。

7.ブラームス (葛城まどか 監修:芦塚陽二)

ヨハネス・ブラームス1833年-1897年)。貧しい生まれの彼は、しかし先生に恵まれて幼少期からピアノの才能を発揮。ローティーンの頃から港町の酒場(売春宿を兼ねている)でピアノを弾くアルバイトをして、家計を助けます。子供向けの本でこういった描写を省かない点は好印象です。職場の酒場でハンガリー民謡を情熱的に奏でるバイオリニスト・レメーニと出会います。後に一緒に演奏旅行をする二人ですが、この経験がハンガリー舞曲のベースになったんだなとしみじみ。大御所・リストの演奏中に居眠りをした有名な逸話(それでレメーニとケンカ別れ)からの、朋友ヨアヒムに導かれてついにシューマン家を訪れたのが20歳の時。才能を認められ、これからというときにロベルトが入院、クララを支えて留守宅を守る生活に。ここからはもう恋愛ドラマです。本書ではあくまでもブラームスの片思いでプラトニックな関係に描かれています。クララの葬儀の後は一人で泣きながらピアノを弾く演出まで。一時期アガーテという女性と結婚寸前までいくものの別れ、生涯独身でした。ドイツ・レクイエムなど音楽家として成功した描写はありましたが、ブラームスを語る上で重要なワーグナーやビューロー、ドヴォルザークはほぼ名前だけの登場ですし、仲良しだったオットー・グリムは出ているもののヨハン・シュトラウス二世は全く出てきません。ちょっと物足りない印象です。うーむ、尺が足りない(苦笑)。

8.バイエル (加藤礼次朗 原作:芦塚陽二)

バイエル―マンガ音楽家ストーリー〈8〉 (マンガ音楽家ストーリー (8))
 

フェルディナント・バイエル(1803年-1863年)。ツェルニー、ブルグミュラーと並ぶピアノ教則本を作った作曲家・ピアニストです。この本だけ「年譜」が無くて、落丁か?と最初は思いましたよ。どうやらその生涯をほとんど知られていない人物らしく、このストーリーは厳密には伝記ではない「創作した物語」だそうです。特に胸熱のシーンは、ツェルニー(ベートーベンの弟子でリストの師匠)に会いに行き、演奏会でベートーベンが少年リストを絶賛する場面に遭遇したところ。バイエルは天才の演奏を目の当たりにして、自分は凡才だと思い知らされます。紆余曲折があって、子供達のための教則本を作ることになりますが、一度作ったらはい終わりではなく常に改訂を続ける努力の人です。晩年のバイエルのもとに若きブルグミュラーが訪ねてくるシーンでは、ブルグミュラーに「一人の天才が作品を世に送り出す事と同じ位、(教則本を作って子供達を導いてきたことは)偉大な価値のある仕事」と心の中で言わせています。いわゆる天才音楽家と呼ばれる人ばかりでなく、バイエルのような人が確かに音楽を作ってきたのですね。おそらくこのシリーズで一番言いたかったことが最終ページにありますので、それは読んでからのお楽しみに。

(レビューここまで)

楽家の子供向け伝記マンガは各社が発行しているので、読み比べるのも面白いです。いやぜひ読み比べてみましょう。今回紹介したシリーズに限らず子供向けのマンガは、決まった尺に収めるために取り上げる逸話がどうしても限られてくるんですよね。読み比べで相互に補完できますし、各著者による解釈違いも面白い。どれも内容は易しいですし、すぐに読み終えることが可能なボリュームです。あと大人なら「解説」はぜひ読んでおきましょう。今回紹介した「マンガ音楽家ストーリー」は解説が素晴らしく、何でしたら解説を読むだけでも価値があります。「××と言われているけれど実際は○○」という別の解釈をその根拠とともに示してくれており、音楽を学ぶ小さいお子さん向けのメッセージもあります。

余談ですが、「どの音楽家の伝記マンガが図書館にあるか」私がざっと見た限りの印象。ベートーヴェンがダントツで多く、よりどりみどりです。次いでモーツァルトショパン(大体同じくらい)、あとはシューベルトが少しと、かろうじてバッハも目にします。クラシカロイドの女性ロイド3名のうち、チャイコフスキーはマンガはないものの活字の本が少しあるようです。マンガも活字本も、なぜかリストが見当たらないんですよ(ショパンの伝記には必ず登場しています)。ほとんど記録が残っていないバダジェフスカは、無くても仕方が無いのかも。あと、意外なところでシューマンの妻である「クララ・シューマン」のマンガを時々見かけます。夫・シューマンと友人・ブラームスはもちろんのこと、メンデルスゾーンほかロマン派の音楽家が大勢登場するので、題材として良いのかもしれませんね。

長くなりました。今回も最後までおつきあい頂きありがとうございました。