アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ

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「フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか」浦久俊彦(著) 読みました

 

フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか (新潮新書)

フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか (新潮新書)

 

 

以前から気になっていたこちらの本、第2シリーズ10話のリッちゃん回を前に読んでみました。今回は購入したものですが、おそらく多くの図書館に入っているかと思われます。私が住む自治体の図書館の蔵書を確認すると、ショパンの伝記はやたら多いのに、フランツ・リストの伝記は本当に少なくて、ちょっと気の毒になります。

クラシカロイド』では女性の設定にされているリスト。「ピアノの魔術師」というニックネームは割と聞くものの、イメージは「当時のアイドル的存在だった」くらいしかないし、知っている曲も片手の指で数えられる程。私に限らずそういったかたは多いのでは?私の場合は特にブラームスに興味を持ったため、音楽家の立場として対極にあるリストは今までノーマークでした。

内容に触れる部分は念のため畳みました。続きは「続きを読む」からお進み下さい。

 

(以下ネタバレあり)

一気に読みました。私は世界史未履修で当時の情勢はよく知らなかったため、リストが活躍した時代とリストのようなスターが求められた理由がなんとなくわかって面白かったです。大人が読む新書でいわゆる「伝記」の枠組みからは外れる本ですが、巻末に略年表もありリストが生きた軌跡は大体わかります。テンポ良いですし楽しく読むことが出来ますよ。余談ですが、この本をダイニングテーブルに置いていたところ、小6の息子も読み始めました。

神童として世に出たリストは、それでも10代の頃はかなり苦労したようです。ツェルニーのもとで修行を終えて向かったパリでは、外国人という理由でパリ音楽院の入学を拒否されます。演奏活動で人気者になるものの、ステージパパは若くして世を去り、お母さんを扶養するためピアノ教師を始めそこで出会った令嬢カロリーヌへの初恋に破れたりもします。うつ傾向でひきこもった約2年の間に死亡記事が出たことも。この期間は猛烈な読書をしていたそうです。10代の頃から出入りしていた「サロン」に、20代では自らのスキャンダルで話題作りをしながら売り込んでいったと著者は分析しています。そしてマリー・ダグー伯爵夫人と恋に落ち、逃避行…『巡礼の年』というピアノ曲集はこの頃に作られたようです。

なぜ女性達が失神したのかは、ごくおおざっぱに言うと「彼女たちが失神したかったから」。著者によると、この頃は旧貴族ではなく、力を持ち始めたブルジョア階級の価値観が幅をきかせていたそう。そこから生まれた、音楽に快感を求めて身を委ねる「奴隷的聴衆」が派手なパフォーマンスやスター性を求めた、と。なるほどね。ややステレオタイプ的な切り口のようにも感じましたが、わかる気がしました。そして19世紀の象徴としてのピアノ…ブルジョア家庭では令嬢のたしなみとしてピアノ演奏を身につけさせようとしたそう。ピアノは彼らの需要にこたえるため、産業革命のイギリスで技術を開発していった楽器職人たちによってどんどん巨大化し、植民地から取り寄せた象牙で白い鍵盤を作り調度品としても発展していったそうです。そしてサロンに「でん」と構えられるわけですね。このあたりはすごく興味深かったです。ちなみにリスト個人としてはエラールとの関わりが深かったようです。

時代の寵児になったリストは、8年間でおよそ千回(!)の全ヨーロッパでのコンサートツアーを行います。「ピアノ・リサイタル」を初めて行ったのもリスト。「ピアニスト」という職業が成り立つのを身をもって証明したのもリスト。どの街でも大歓迎を受け、演奏では人々を興奮の渦に巻き込む。リストって、サービス精神旺盛な人だったのでしょうね。音楽家なので純粋に演奏を聴いて欲しい想いはあったと推測しますが、聴衆が求めるのであれば派手なパフォーマンスだってやる。そして収益はほとんど寄附しています。何より素晴らしいのは、CDや音楽配信どころかラジオもないこの時代に、小さな街の人々にも音楽を届けたこと。ベートーヴェン交響曲9曲をピアノ用に編曲したのは有名ですね。他にも「ハンマークラヴィア」のようなベートーヴェンの後期ピアノソナタは弾ける人がいない理由であまり知られていなかったのに、楽譜に忠実に弾いたことで人々の手に届くものになったとか。

ヴァイオリニスト・パガニーニの演奏に感激して「ピアノのパガニーニにオレはなる!(※意訳)」とか、有名なタールベルクとのピアノ・バトル、義理の息子ワーグナーとの関わりといった他の音楽家との関わりや、伊藤博文と会った逸話はごくあっさりと。一章設けられたショパンとの関係はやや詳しく書かれていて、リストがショパンの伝記を書いたという有名な逸話以外でもこの2人の関係は純粋に面白かったので、ぜひ本書を読んで確認してください。個人的には、なぜリストはショパンほど伝記がないのかについての考察が興味深かったです。ショパンは祖国ポーランドが現代に至るまで盛り上げてくれている。一方、リストの場合は一応ハンガリーという祖国はあってもドイツ系でハンガリー語は話せず、社交界デビュー後は主にフランス語を使い、ヨーロッパ中を駆け回った「ヨーロッパ人」だったから、ということのようです。

リストはピアニストとして第一線を退いてから、大勢の弟子の育成や作曲に力を入れるように。この後半生はやや駆け足で書かれています。弟子に言った「私のやり方を真似するな」とは、自分が特殊な存在であることを自覚していたからこそ。恋多き人生を送ってきた彼も、年を取ってからカロリーネ(初恋の相手と名前が似てますね)という女性と結婚寸前までいくものの破局。また3人の子供のうち2人に先立たれています。そして晩年は聖職者になっています。

ここから本書の内容から離れます。本書でも名前が出てきた「リスト音楽院」、私が住む札幌でも「リスト音楽院セミナー」というのがあって、若いピアニストを育成する場になっています。リストが蒔いた種が遠い日本の地方都市でも芽吹いているのは、月並みな表現になりますが本当に素晴らしいこと。公開演奏会もあるようなので、時間が合えば聴きに行きたいなと考えています。

 

ピアノの魔術師リスト (ジュニア音楽図書館―作曲家シリーズ 16)

ピアノの魔術師リスト (ジュニア音楽図書館―作曲家シリーズ 16)

 

 

フランツ・リストの子供向け伝記で私が見つけることができたのは、音楽の友社「ジュニア音楽図書館 作曲家シリーズ」にある「ピアノの魔術師 リスト」です。他はちょっと見当たりませんでした。執筆陣が豪華なこのシリーズ、私は今少しずつ読んでいます。18冊あるのですが、いずれはレビューをアップしたいと考えています。

長くなりました。最後までおつきあい頂きありがとうございました。

 

※禁無断転載。この記事は「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c