アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ

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「クラシックの名曲解剖 (図解雑学)」(編著:野本由紀夫) 読みました

 

クラシックの名曲解剖 (図解雑学)

クラシックの名曲解剖 (図解雑学)

  • 作者: 野本由紀夫,稲崎舞,松村洋一郎
  • 出版社/メーカー: ナツメ社
  • 発売日: 2009/04/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 1人 クリック: 9回
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今回紹介するのは、大人が読むCD2枚付きの雑学本です。例によって図書館で借りてきました。編著の野本由紀夫さんは、過去にNHK‐BSテレビで放送されていた「名曲探偵アマデウス」の監修をつとめていたそうです。時々評判を耳にするこの番組、一度全部観てみたいです。番組の一部は書籍化されているようですが、残念ながらそちらは図書館にありませんでした。

 

CD付き NHKクラシックミステリー 名曲探偵アマデウス

CD付き NHKクラシックミステリー 名曲探偵アマデウス

 

 

私はこの記事を公開後すぐにNHKに再放送の希望を出します。Eテレの番組ではないので「お願い!編集長」ではなく、ツイッターハッシュタグ #nhk_rerun #クラシカロイド を使います。皆さんもよろしければお願いします。

内容に触れる部分は畳みました。続きは「続きを読む」からお進み下さい。

 

 (以下ネタバレあり)

未読のかたは一読をオススメします。知らなかったこと、でも知って得した気分になれる知識が満載です。取り上げられている曲は誰もが一度は聴いたことのある名曲揃いで、なぜそれらが「名曲」と呼ばれているのかの根拠を解説してくれる本。伝記や音楽史寄りの本が目立つ中で、ありそうでなかった本だと思います。内容は濃いですが、難解ではないので楽しく読むことが出来ます。何を隠そう、私は曲を聴いても「これ好き」「これはそうでもない」程度の直感でしか判断できない音楽の素人です。もちろん感受性が一番大事だとは思います。しかし、そんな素人でもちょっと理屈や背景はわかるとより深く名曲を聴けるようになりそうです。それぞれの曲の掘り下げだけでなく、「『絶対音楽』と『標題音楽』」「『オーケストラ』とは」など、コラムも大変充実しています。内容については普遍的なことが書かれてあると思うのですが、話をわかりやすくしようと本文中に入ってくる時事ネタ(2009年初版)が、今となってはやや古く感じるのがちょっともったいないです。「食品偽装」「イナバウアー」「のだめカンタービレ」といったもの。

解説されている曲は実に36曲。そのうちCDに収録されているのは20曲です。まずは本書を読む前に先入観なしでざっとCDを聴くのをおすすめします。交響曲など長いものは一つの楽章のみ、という抜粋型ではありますが、こういった本の付録にありがちな「変なところで切る」ようなことはなく最初から最後まで聴かせてくれます。音源提供はナクソス・ジャパンさん、さすがです。

全部の曲について書くのは無理なので、一部抜粋して紹介しますね。『クラシカロイド』に登場する音楽家(2017年12月現在)の曲では、バダジェフスカを除く9名、しかもムジークになっている曲が多く取り上げられています。以下に太字で書いた小項目が『クラシカロイド』に登場する音楽家の作品。そのうち、赤字がムジークになっている曲です。各作曲家ごとに1曲(ベートーヴェンのみ2曲)の紹介をざっくり書きます。また、私が書き入れた文章に登場する豆知識はあくまでも「一部」です。ここでは書ききれない程、さまざまなトピックがありましたので、ぜひ本書を確認してください。

※作曲家ごとにソートし直したので、本での登場順とはやや異なります。

  • バッハ:ブランデンブルグ協奏曲第2番より第1楽章
    当時のトランペットが極端な話「唇でしか音の高さを変えられない」もので、超人的に難しいメロディだそう。曲のつくりは、ソリストたちが演奏する「エピソード部」がしりとり形式でソリストたちに次々バトンタッチされていく綿密緻密なもの。メインテーマを弾く楽器が交代していく様子はじっくり聞き取れると面白いかも。

  • モーツァルト:「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より第1楽章

    長く埋もれていた曲で、本来は5楽章構成だったのが一部紛失のため4楽章構成に。そのおかげで小さな交響曲のようにもてはやされ、また20世紀前半のSPレコード(片面4分30秒)ちょうど2枚に収まるという理由からもよく録音されるようになったそう。でもこうなってくると、紛失した楽章がとっても気になります。

  • モーツァルト交響曲第40番 ト単調
  • ベートーヴェン交響曲第5番「運命」より第1楽章
    冒頭の休符がオーケストラにとっての鬼門とは知りませんでした。どの楽章にも「ジャジャジャジャーン」が出てくる、まるで大根1本をフルコースにした「料理の鉄人」(※だから本文中のたとえが古い…)。「絶対音楽派」のモデルになった曲とも。

  • ベートーヴェン交響曲第6番「田園」
    第5番と双子のように同時進行で作られた曲。2拍子で、冒頭の八分休符にフェルマータというのも似ている。作曲家がそれぞれの楽章にまでタイトルをつけていて、「標題音楽派」のモデルに。

  • ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」
  • シューベルト:歌曲「魔王」
    録音は女声でした。歌い手は4役を歌い分けますが、同時にピアノ伴奏も演じ分けているそうです。同じように聞こえるメロディもよく聴いたら違っているのは確かに。衝撃の結末はあえて伴奏なしの空白になっているそう。

  • シューベルト交響曲第7番「未完成」
  • ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界」より第2楽章
    クラシカロイド』第2シリーズ第1話でムジークになったのは第4楽章ですね。本書で取り上げられているのは第2楽章。どこか懐かしさを覚える家路のメロディは「ヨナ抜き音階」と言って、4番目のソ♭と7番目のドがない。これは世界中で親しまれている民謡にも多く、日本の演歌でも主流なのだそう。

  • ショパン24の前奏曲より「雨だれ」
    雨音を思わせるラ♭=ソ♯が八分音符刻みでずっと打ち続けられるこの曲。「雨だれ」の誕生秘話から連想される曲は他にもあるものの、今日第15番を「雨だれ」と呼ぶのはこのラ♭の連続が雨音を思わせるから。しかしその連続した「しずく」の音が最後に来て突然消え、フォルテの単旋律が「モノローグ」のようになっているとか。つい主旋律にばかり気を取られてしまいますが、支えている対旋律にも注目すると面白いのですね。

  • ワーグナー:「ニーベルングの指輪」第1夜「ヴァルキューレの騎行」
    長い楽劇の中で登場人物を印象づける画期的な「ライトモティーフ」。部分的に切り取られて有名になっている「ヴァルキューレの騎行」にも「ヴァルキューレのライトモティーフ」がしっかりと入っているそう。私、本書を参照しながらCDを聴いたら、どの部分か聞き取れましたよ!「ニーベルングの指輪」のざっくりあらすじと人物相関図もありました。それにしても登場人物たちの近親相姦がすごい…日本の王族も昔はそうだったからこんなものなのかな?

  • リスト:パガニーニによる大練習曲集より「ラ・カンパネッラ
    現在親しまれているのはリスト40歳頃に完成した第3稿。本家を凌駕する「鐘の響き」の高音レ♯は、鍵盤を跳躍する手の運動量の多さでますます響きが硬質に。装飾変奏も途切れないことで全体として1曲に聞こえるそう。これ、もうほとんどリストが作った作品じゃないですか!激ムズのリスト第1稿・第2稿もそれぞれ、パガニーニの原曲と聞き比べてみたいです。パガニーニの録音音源はあまりないみたいですが。

  • チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」より第4楽章
    チャイコフスキーはオーケストラの天才。メロディメーカーとして美しい旋律を生み出すのはもちろんのこと、バイオリン属で同じ音をなぞる(ユニゾン)一方で管楽器に和音を吹かせて「ハモる」楽器使いのうまさがあるそう。他の曲もそういった視点で聴くと面白いかも。

あと、『クラシカロイド』関係ないですがもう1曲取り上げさせてください。どうしても言いたいことがあって。

  • ブラームス交響曲第1番より第1楽章

    指揮者ハンス・フォン・ビューローが「ベートーヴェン交響曲第10番」と形容したこの曲。「ベートーヴェン交響曲第5番ブラームス交響曲第1番は似ている」と言われているのは知っていました。その根拠が解説されています。ハ短調からハ長調への「苦悩から勝利へ」の図式に従っていて、緻密なモチーフ処方までもが「運命」を彷彿とさせるそう(※モチーフ処方の具体例は書かれていませんでした)。また終楽章の主要主題は「歓びの歌」に似ていると根拠は示さずに断言。終楽章のホルンの旋律がクララへのメッセージであることは知っていましたが、本書での書きかたがちょっと下世話な印象を受けました。他もしつこくブラームス交響曲ベートーヴェンにあてはめて、第2番は「田園」、第3番は「英雄」と呼ばれていると紹介しています。第4番にいたっては楽器法が100年古いのをあげて「屈折した態度が」古風で情緒あふれる音楽を生んだ、とあり、褒めているんだか貶しているんだか…。著者はもしかするとブラームスはお嫌い?とちょっとだけ邪推しましたよ。違っていたら申し訳ありません。

    でもあえて言います。「ベートーヴェン交響曲ブラームス交響曲は別物です!」似ていると言われる理屈はなんとなくわかったし、おそらく本人も意識していたでしょう。ファンの贔屓目なのは認めます。でも最後は自分がそう信じたいのです。詰まるところ、音楽の解釈は聴く人が決めること。理論や知識は補助的に知っておくにとどめ、専門家が言うことだからと何でも鵜呑みにすることはしない、と思いました。

長くなりました。最後までおつきあい頂きありがとうございました。


※この記事は「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c